高校1年生で履いたスノーボードを再び手にしたのは、アメリカから一時帰国した7年前。10 代の頃に使用していた重たいボードを持って友達家族と向かった、ニセコへの旅がきっかけです。滞在中、休憩所と勘違いし立ち寄ったところが偶然にもGENTEMSTICK のデモセンター。スタッフの方は、あまりにクラシックな私の板を見てレンタルを勧め、人生初のパウダーボードを体験することになりました。
gentemstick women's project / ARCHI director Sae Isshiki
gentemstick women's project
ARCHI director Sae Isshiki gentemstick
women's project
ARCHI director
Sae Isshiki
初めてのGENTEMSTICK は瞬間瞬間に俊敏な反応を見せ、自分のスキルの程度をリアルに伝えてくれました。そして未体験の浮遊感や、エレガントな装いなど、それまで知っていたものとは次元の異なるスノーボードとの出会いとなって、私は一気に引き込まれていくことに。以来、今年25周年を迎えるファッションブランドARCHI のディレクターとして日々を過ごす一方、シーズン中は暮らしの真ん中にスノーボードがあるといえる頻度で滑っています。
都会で生まれ育った私ですが、若い頃から自然に向かう純粋な気持ちは今も全く変わりません。自然の中での時間は、社会からの抑圧や他者からの先入観とは無縁です。自然と分断されたエゴなどは簡単に弾かれてしまいますし、自分の道(ライン)に責任を持つことで限りのない自由を感じます。
虚飾のない世界で過ごすことで、肉体と精神における素を取り戻してもいます。物事の捉え方はすでに自分の中に備わっているもの。ですが日々の暮らしの中で、ときに価値観は揺らぎます。私はスノーボードを通して雄大な自然に抱かれ、自分自身を保っているのかもしれません。 特にバックカントリーでは、足を一歩一歩踏み出して登る時間は心を鎮め、身体の軸を保つトレーニングになります。またその先にある貴重な1 本は野生を取り戻す儀式のようで、今という瞬間を生きる大切さを教わっています。
このように冬になれば足しげく雪山通いをするなかで、GENTEMSTICK ファミリーの一員として本プロジェクトに参画し、グラフィックを手掛けることになりました。太朗さんの物づくりへのアプローチの一つは、白銀という真っ白なキャンバスの中で得た出会いや体験を形にしていく、といったもの。鋭い視点と広い視野を有する佇まいには、時々に抱いた関心事を大切にする私の創作姿勢に通じるところがありました。そのため山では手の届かない存在の太朗さんですが、今回ご一緒した時間では共通する感性をもって創作していったことから、存在を身近に感じられ、心地良さを抱きました。
モチーフは普遍的な美の存在を示す鉱物です。石は単に石であるだけでなく、木の根、貝殻や鳥の羽などと同様、地球の創造物です。スノーボードはどれだけ自然界と融和できるのかが大事だと感じているので、遊び道具もそこから着想を得たもので制作したいと考えました。何よりGENTEMSTICK はティントをスノーボード作りに活用した先駆者。透けて見えるコアウッドが鉱物の断面のアートに似ているので、「板が鉱物の断面の様であったら」と、イメージは容易に湧いてきました。
そうして誕生したのが本モデルです。凛とした鉱物の色が心地良さとなり、また白銀のフィールドを疾走する皆様の冒険のパートナーへ。そのように願い、私もフワッとしたノートラックや美しいピステンバーンをターンしていく至福の瞬間に思いを馳せ、次の冬を楽しみに待ちたいと思います。
Text by Takashi Osanai
Photo by Hiroyuki Yamada
Release Date 2024.09.25