成田空港を飛び立ち、十時間のフライトを経て太平洋を横断。経由地のシアトルでは小型機に乗り換え、オレゴン州のベンドへ向かった。
離陸後まもなく見えてきたのは、まだ雪が積もったカスケード山脈。春の光に照らされて、その姿はどこか優しくも力強い。しばらくして現れたのは、雪解けの進んだ丘と芽吹き始めた大地。空港に降り立つと、澄んだ空気と静寂な雰囲気が迎えてくれた。
都会にはない、ゆったりとした時間が流れている。春の装いをまとい、自然と暮らしが美しく共存する街ベンド。旅は、ここから始まった。
成田空港を飛び立ち、十時間のフライトを経て太平洋を横断。経由地のシアトルでは小型機に乗り換え、オレゴン州のベンドへ向かった。
離陸後まもなく見えてきたのは、まだ雪が積もったカスケード山脈。春の光に照らされて、その姿はどこか優しくも力強い。しばらくして現れたのは、雪解けの進んだ丘と芽吹き始めた大地。空港に降り立つと、澄んだ空気と静寂な雰囲気が迎えてくれた。
都会にはない、ゆったりとした時間が流れている。春の装いをまとい、自然と暮らしが美しく共存する街ベンド。旅は、ここから始まった。
Mt. Bachelorに着いて、まず感じたのは山が持つ“やさしさ”だ。メローな斜面が広がり、スキー場のコースには自然な起伏が続いていた。まるで緩やかな波の上を滑っているような感覚。木々の間隔も絶妙で、その森の中にはとても心地よい時間が流れていた。
そしてもう一つ、この山に流れる“やさしさ”をつくっていたものがあった。それは人。山にいるローカルたちはみんな穏やかで、どこか自然と調和しているようなムードをまとっていた。彼らの柔らかな雰囲気は山全体にも染み込み、滑っているだけで心が落ちついていった。
そんなMt. Bachelorで開催されるBig Wave Challengeは、独特の地形と空気感にふさわしいイベントだった。圧雪車だけで仕上げられたコースは驚くほど完成度が高く、どのセクションも丁寧に作り込まれている。それぞれのセクションには世界の有名サーフポイントの名前が冠され、レギュラーにもグーフィーにも、美しい“波”が立っていた。
この波の乗り方に正解はない。
波のリズムに合わせて気持ちよくカービングするもよし、トリックを織り交ぜて、自分だけのスタイルを刻むもよし。
目の前に現れた地形と、どう“対話”し、どう“遊ぶ”か。ライディングの上手さだけではなく、自由な発想や感覚が試される、まさに“遊び方”が問われるイベントだった。
このBig Wave Challengeに集ったのは、個性もスタイルも異なる6人のライダーだ。藤田一茂は3度目の参加となる、本イベント経験が豊富なライダー。今回のメンバーの中では最年長であり、リーダーとしての役割をその背中が示すことにもなった。セクションへの入り方や流れの作り方など、滑りで魅せるのはもちろん、移動中やリフトの上でも、彼のひと言がチーム全体の空気を整えた。滑りでも言葉でも、確かな“芯”を持って仲間を導いていた。
アレックス・ヨーダは、波打つ地形に静かに身を委ねていった。スムースで無駄がなく、1本のラインを丁寧に、流れるように刻んでいく滑りには安定感と美しさが同居。急激なリップアクションや派手なトリックに頼らずとも、その一つひとつのターンが観る者を惹きつけた。
地形を読む目、板の使い方、ライン取り──
どれを取っても一級品のテクニシャンである彼の滑りは、ただ巧みなだけでなく、彼の人間性までも感じさせるものだった。
五十嵐黎は、相変わらず物静かな佇まいを見せていた。だがいざ1本目を滑り出せば、そのラインが雄弁に彼自身を物語った。地形を読み解くセンスと、そこに自分の色を落とし込む感覚。Mt. Bachelorの波のような地形の中で、彼の滑りは静かに、そして鮮やかに輝いた。
そんな彼がふとした瞬間にこぼしたひと言がある。
「俺の滑りは作品だから」
まさしく、彼のすべてを物語る言葉だった。
今回のメンバーにおいて紅一点の北原あゆみは、前回のBig Wave Challengeでオープンクラス優勝という実績を持つ実力者だ。
今回もスラッシュやレイバックをはじめ、壁を使った動きの一つひとつに力強さと美しさを感じる滑りを披露。波を切り裂くような鋭さの中に、しっかりと自分のスタイルを刻み、自然体で楽しんでいるように見える滑りは、完全にジェンダーレスの域にあった。
星宏樹は今季GENTEMSTICKに加入し、Big Wave Challengeに初出場。初めての海外イベントということもあり、緊張した面持ちも見せていたが、そんな中でも「魅せる滑りをしたい」という気概が全身から伝わってきた。
滑りはまだ粗削りながら、力強さと豪快さが際立っており、リップへのアプローチは大胆で、飛距離もひときわ目を引いた。荒々しくも、確かな可能性が光っていた。
玉井天満は全米ジュニアフリーライドチャンピオンシップを翌週に控えながらの参加だった。
世界各地を転戦し、多くの険しい地形を滑りこなしてきた実力者だ。一番の若手ながら、その滑りは堂々としており、目の前に立ちはだかるBig Waveにも一切ひるまず、巧みに地形を捉えていった。要所に緻密さと冷静さがにじみ出ており、まさに経験に裏打ちされた滑りを披露した。
大会の結果、藤田は安定感と高い技術で「Best Carve賞」を受賞。常に冷静に地形を読み、余すことなく確かなライディングスキルを披露した。玉井は圧倒的な力強さで「Most Powerful賞」を獲得。豪快な滑りと迫力は、多くの来場者に強烈なインパクトを残した。
こうして第13回Big Wave Challengeは閉幕したが、ライターたちにとっては大会主催者Gerry Lopezとの交流も大きな刺激となったようだ。何より本イベントは、Gerry自身が体現するAlohaスピリット──自然への敬意、仲間とのつながり、心から滑りを楽しむ気持ち、に溢れるもの。そんなやさしくポジティブな空気との触れ合いは、ライダー個々に“スノーボードの原点”を見つめ直す機会を与えることにもなった。
Text by GENTEMSTICK
Photo by Kazushige Fujita, Jun Yamagishi, Jon Tapper
Release Date 2025.04.25