STORY

01 / VALDEZ, ALASKA 1993 spring

このエリアのヘリによる開拓が始まった初期の頃1993年の春。3月の終わりから5月の中旬までの間10数年ぶりに巡ってきた最高のコンディションに迎えられ、アラスカ、チュガッチ山脈のヴァルディースという田舎町に世界中から約20人のスノーボーダースキーヤーが集まった。ヘリコプターをこの期間チャーターしてあたりの山々の畳1畳分しかない山のピークでヘリで飛んでいきそこから超急斜面オンパレードの斜面をどこでも滑走してしまおうという試みだ。のちにエクストリームといわれるスタイルに発展する。平均斜度45度以上。中には60度以上の斜面もいくらでもある。

集まった20人は、その時代の山を滑る最高の技術と精神を持った人間達だ。誰かの一声でメンバー5人が集まった。静まり返った山の谷間に甲高いヘリのローター音を響き渡らせ俺たちを乗せたヘリはぐんぐんと高度をあげていく。氷河で削られた巨大な谷間の日陰の中を進んで行く。目の前に聳える絶壁を夕日に向かって抜けて行くと、未だに誰も滑られた事のない手つかずのバージンフレッシュスロープをたたえた山々が黄昏色に輝いて視界の限界まで広がっていた。どの山を狙おうか、ここにはヘリの順番待ちはない。

俺たちに与えられた時間は余りにも多くあった。ローカルのDonnyMillsが傾斜の緩い数時間も続く夕日の光線を浴びた長大で恐ろしく急で最高の粉雪で覆われたこの世のものとは思えないゴージャスな斜面に飛び込んでいく。私達5人だけに与えられた至福の瞬間が積み重なっていく。1000mから1500mもある標高差をたった一人の人間が全てをかけて滑り降りているのは見ているだけでも現実感がない光景だ。

この斜面は斜度の変わり目の氷河が落ち込んでいくところでひび割れが激しくなっている。私が落ち込み手前で止まると仲間のDonnyが先を越していった。太陽の傾斜はますます緩くなり風もぴたりと静止し優しさに包まれていく。厳しい地球環境の中で垣間見る至福の瞬間。その刹那に立ち会える素晴らしさ。日々生きる喜びを心から噛みしめ全てのものに感謝して過ごしたピュアーな開拓時代のモーメント。

玉井 太朗